深夜のコンビニ

fiction, Feb. 2019

ほしちか

深夜のコンビニの明かりを見ると、なぜか気持ちが安らぐ。星ひとつ見えない冬の夜、寝巻の上にフリースジャケットを羽織り、私はマンションのすぐ隣にあるコンビニへと出向く。化粧を落とした顔に大きな眼鏡をかけてつっかけを履いた私の存在を、コンビニはすーっと開く自動ドアで出迎えてくれる。

たらこのおにぎりにツナとコーンのサラダ。カップヌードルにスナック菓子。野菜ジュースのパック。レジ横のおでんの香りに惹かれて、ついそちらにも手が伸びる。

夜中に部屋で仕事をする私のような女にも、コンビニの明かりは等しく優しい。夜の中に、明かりが浮かんでいるだけで、孤独感が薄まるのは不思議なことだ。

レジで会計をする際に、ちらっと店員と目が合った。大学生だろうか、フリーターだろうか。少し長めの前髪が額にかかり、なかなか整った顔立ちをしている。

――こんな子、このコンビニにいたっけ。

ちょっとかっこいい、と思ったとたん、自分のだらしない格好が急に意識された。レジでぱんぱんに膨らんだ袋を渡されお釣りを受け取ろうとしたとたん、手が滑った。小銭が床に音を立てて転がった。

「あー、すいません」

彼がさっとしゃがんで小銭を拾う。うっかり彼の顔に見惚れていたからこういうことになるのだといたたまれなくなり、こちらも何度も謝った。

挙動不審な女に見えたかもしれない。そう怖々と俯いたままでいたら、彼がふいに、柔らかな笑顔になった。

「ありがとうございました!またお越しください」

その笑顔に、胸をなでおろした。

マニュアル通りの決まり切った応対なんだろう。

それでも、でも、それでも。

寒い夜、何も目新しいことはないと立ち寄ったはずのコンビニで、小さな嬉しさをもらえた気がした。

帰ろうと思いくるりと踵を返したその先に、コスメコーナーがあった。普段は目に入らないはずの、くすんだ薔薇色のマニキュアがふいに飛び込んでくる。

「……すいません、これもください」

本当に、なんでこんな格好してきたんだろうと後悔しているあいだにも、彼はまたさっと会計し、ていねいな手つきで、今度こそ私が落とさないようにお釣りを返してくれた。

「ありがとう」

小さな声でお礼を言って、コンビニを後にした。しらじらと冷え込む冬の晩、手にさげているコンビニ袋の中のおでんが、ただただ温かい。

written by

ほしちか

能登生まれ→東京の大学に進学→現在は富山在住の三十代。文章を書くこととごはんをつくることが好き。
現在小説やエッセイをnoteにて発表中。 日々のささいなことに光をあてて、温度のある言葉をつづりたい。

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