全員主役

fiction, Sep. 2019

koala

「全員主役」。うちの中学校のスローガンになっている、この言葉が大嫌いだ。本当に全員主役だったら、ステージの上は大渋滞だろ? 脇役がいなきゃ主役は成り立たないんだよ。

このうそくさい「全員主役」、三年生全員が参加する生涯学習発表会の練習で、ここぞとばかりに教師が連呼する。目立つ数人の生徒が劇と踊りをやって、残りの何十人はリコーダーで音楽を奏でる。誰が見ても全然、「全員主役」じゃない。

今日の練習もだるいなあ。むっとした空気の体育館で、リコーダーに割り当てられた僕は、軽く頭をかいた。額に髪の毛が張り付いて気持ち悪い。

「そこ、ごそごそ動かない! 全員が主役として取り組んで! みんなが一生懸命な姿が見る人を感動させるんです!」

ちょっと気を抜くとすぐに教師の声が飛んでくる。特に音楽教師の小泉はこの発表会にかけてるみたいだった。自分の評価につながるからだろう。そんなことに僕を巻き込まないでほしい。

ため息をついて体育館の天井を見上げる。この下に並ぶほとんどの生徒が脇役なんだから。

体育館の真ん中で、選ばれし生徒たちがくるくると踊っていた。僕と違い充実感のある顔をしている。そりゃあそうだろう。彼らは本当に主役なんだから。

「やめやめ、中断!」
 
また小泉が叫ぶ。

「高橋くんと前田さん、ちょっとこっち来なさい」

げっ、呼ばれてしまった。練習が中断して他の生徒が注目する中、僕は体育館の隅に立つ小泉のところまで走った。小泉の前に僕と前田が並ぶと、まず前田に注意が飛んだ。

「前田さん、もっと生き生きと吹いてみて。全員が主役って意識でやらないと」

前田は、クラスでもあまり目立たない女子だ。下を向いてうつむいているのを、小泉が詰問する。

「前田さん、聞いているの?」

前田の答えを待たず、小泉は次に僕へ目を向けた。

「高橋くんも、どうしていつもだるそうにするの? みんなが主役なのよ? やる気がないなら出て行きなさいね!」

やる気? そんなものあるわけない。教師が勝手にやることにした発表会、「みんなが一生懸命取り組むのが素晴らしい」って生徒に押し付けただけだ。

きっと小泉は、「やる気はあります、もう一度やらせてください」という言葉を期待している。でもそんな期待になんて、絶対応えてやるものか。

「分かりました、やる気はないので出て行きます」

僕が小泉に背を向けたとき、「私も!」と凛とした声が響いた。

振り返ると、前田も「私もやる気がないので出て行きます」と小泉に頭を下げている。びっくりだ。

僕たちはふたりで体育館を出る。話したこともない前田と並んで歩いているなんて、変な感じだ。

「どこへ行く?」

「どこにも、行くところないね」

学校外に出たって補導されるだけだ。僕たちは仕方なくグラウンドの隅にある、駐輪場のはしっこに座り込んだ。

「ねえ、私たち、今日は主役って感じだね」

「え?」

普段大人しい前田がちょっと悪い顔で笑う。

「先生に自分の意見を言ったんだよ。やる気ないから出て行きますって、高橋くんおかしい」

「そうかな」

「みんな見てたよ」

「見てたね」

「今なんて、駐輪場に隠れてさぼってるし」

自転車を通り抜けて風が吹いた。体育館でほてって額に張り付いた髪が、さらさら乾いていく。遠くにグラウンドで体育の授業を受ける生徒が見える。それを除くと、曇り空の下、僕たちふたりだけだった。

「うん、確かに今日の主役は僕たちかも」

「主役だね」

前田の顔には、充実感が漂っていた。

そしておそらく、僕の顔にも。

学校が期待する主役にはなれなくても、自分の主役にはいつでもなれる。なれる場所を探せばいいだけなのだ。

なるほどね。「全員主役」、悪くないかもしれない。

written by

koala

noteを中心に、エッセイや小説を書いています。
カフェオレみたいに、甘くて少しほろ苦いものを書いていきたいです。
趣味は星占い、月星座は天秤座。

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