まあるいレモン煮

essay, Oct. 2019

ハネサエ

長女が幼稚園に入って最初の秋、初めての芋ほり遠足があった。

長女はなぜかその日、行きたくないとぐずぐずがおさまらず、いつまでも膝を抱えてうつむいていた。せっかくお弁当をこしらえたのに、集合時刻も迫っているのに、ずいぶんやきもきしたことを覚えている。ああでもない、こうでもないと散々悶着して、最後はほとんど引きずるように連れていった。

でも遠足から帰宅した長女は、満面の笑みで「楽しかった」と言い、袋に大きいのをひとつと、小さいのをふたつ、持ち帰った。

「よかったね、よかったね」と長女と言い合って、さて、このお芋何にしよう、と考えた。お味噌汁にしてもいいし、てんぷらにするのも悪くない。でも、なんだろう、こう、もっと、楽しかった気持ちをさらに後押しするような、朝の悶着を帳消しにできるような、気持ちがさらにふわっと明るくなるものをつくりたかった。

携帯で「さつまいも レシピ 」と検索する。いろんなお芋がおいしそうなお料理になって、画面の中にずらりと映る。

その中で、まあるく輪切りにされたさつまいもが詰まったお鍋に目を奪われた。「さつまいものレモン煮」とあった。さつまいもの果肉が、鮮やかな黄色に染めあげられて、ぎゅっと並んでいて、とても愛らしかった。これにしよう。

レシピはいたって単純で、輪切りにしたさつまいもをお鍋に入れて、お水をひたひたに注いだら、お砂糖とレモンの果汁を入れてコトコト煮る。ただそれだけ。

こんなに簡単でいいのだろうか、お出汁をとらないで煮物をつくるなんて、ちょっとインチキじゃないのかしら。いろんな思いが渦巻きながらふたを開けると、丸くてかわいいお芋がお行儀よくこちらを向いていた。まるで長女の顔みたいだった。ひとくち口に放り込むと、やさしい酸味とお芋の甘さがほっとする。お菓子みたいなレシピなのに、ちゃんと煮物の味がした。

長女は柑橘類が大好きだから、このレモン煮がとても気に入っていって、お代わりまでして、たくさん食べた。

翌日、幼稚園の先生に、「レモン煮にして食べたの」と言ったらしい。「素敵ねって言ってくれたの」長女はまあるい顔で笑って言った。

以来、スーパーにさつまいもが並び始めると、ああ、今年もレモン煮にしなくちゃ、と、思わずレモンを手に取ってしまう。

数日前、息子が「今日はお月見だからお月さまのごはんにしてよ」と無茶苦茶なことを言った。困ったなぁ、と頭を悩ませたところにあの、黄色くてまんまるなお芋が頭に浮かんだ。

さつまいもを輪切りにして、お鍋でコトコトひと煮立ち。あっという間にたくさんのお月さまが出来あがった。お皿に並べると、「お月さまだー!」と、これまたまあるい顔で笑ってくれた。

今年も、もうすぐ芋ほり遠足がやってくる。卒園した長女の代わりに、今度は息子が掘る番だ。

レモンを買って、待っていよう。まあるい笑顔が待ち遠しい。

written by

ハネサエ

6歳、4歳、1歳のおかあさん。ときどきライター。夜中に自宅の脱衣場でちまちま書いてます。
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