スクール・デイズは振り返れない。

essay, Sep. 2019

SAKI.S

9月特集のテーマを「スクール・デイズ」と掲げておきながら、私は日本のスクール・デイズについて語るべきことを持っていない。日本にある日本の学校に通ったのは小学一年生の1年間だけで、あと大学に入るまでずっと、海外にある日本人学校か、現地校の国際部(インターナショナルスクールのような、外国人が通う学校)か、もしくは現地の人と同じ、現地校に通っていた。

日本人学校は日本の教育制度に則り、日本から先生が派遣され、授業も教科書もすべて日本の公立校と同じものが使われる。でもそんな日本の学校のようでいて、要所要所は違う部分があったのだと思う。

日本人学校だけで4つ通ったけれど、上履きを履かず土足の学校もあれば、私服の学校も制服の学校もあった。

共通していたのはスクールバスで通学することと、部活動が盛んでないこと。中学ではバスケ部に入っていたけれど、練習は週三回しかなく、もちろん県大会とかそういうのもなかった。未だに私は、アニメの部活シーンを見ていても、試合の仕組みとか引退のタイミングとか、そういうのがいまいちピンときていない。

4つの日本人学校で共通していたのが、みんなかつては(そしておそらくこれからも)転校生であり、それゆえ転校生に優しいことだった。いじめとかはほとんどないと言うに等しく、風通しがすごくよかった。みんな(大)企業の転勤族の子どもで、母親は専業主婦という、似たようなバックグラウンドを持っていたのも大きかったのかもしれない。

井の中の蛙だったというか、ぬるま湯の中にいたんだなあと、私は日本人学校を離れてから実感した。

それほどまでに4つの日本人学校は、私にとって居心地の良い場所だった。中学の途中で本帰国となり、転校生などほとんどいないような地元の公立中学に転入した友だちが、学校に馴染めず苦労した、という話は当時ちらほら聞いていて、日本の学校には通いたくない、と、あのころの私は心底思っていた。

でも日本人学校は義務教育までしかないので、中学卒業のタイミングで、現地にある他の学校に通うか、日本に帰国するかの選択を迫られる。父親を残し、母親と子どもだけで先に帰国するというケースも多かったけれど、うちは父が単身赴任する選択肢はなかったようで、私は高校で親元を離れひとり帰国し、寮のある高校へ通うか、もしくは現地のインターナショナルスクールに通うかのどちらかを選ぶことになった。私は家族と一緒に残ることにした。

そうこうするうちに引っ越しになり、私は香港にあるインターナショナルスクールではなく、上海にある現地校の国際部に通うこととなった。

一時帰国をした際に、友だちの高校へ遊びに行ったり、大学で本帰国をして、選挙で近くの小学校へ足を運んだりするたびに、私はいまだにドキドキしている。

校舎に入ってまず並んでいる木の下駄箱や、「3年1組」と掲げられたプレート。背の低い手洗い場に、キーンコーンカーンコーンと鳴り響くチャイム。長細くてぼおっと白っぽい廊下に、放課後、響いてくる部活動顧問の声…私にとってそれは異文化であり、同時に、身につけておくべきだったものたちの詰め合わせだった。

部活での上下関係、文化祭をはじめとした集団活動、知識をたくさん詰め込む受験に、固定化された人間関係における適切な振る舞い方…それ自体が良いか悪いかは置いておくとして、日本で生活する上で、「自分はどこか日本人になりきれていないのでは」と思わせられる、そんなものたちが、学校の校舎には詰まっていた。今でも、近所を歩いていて学校のそばを通るたびにドキドキしてしまうのは、きっとそのせいだ。

身に着けるべきだったものが詰まった世界、私が本当ならそこにいるはずだった世界。それが私の、日本のスクール・デイズだった。「日本の学校」は怖かったと同時に、文化祭で模擬店を出したり、放課後制服で街に出たり、部活で試合に出てみたりと、憧れがいっぱい詰まったものでもあった。

憧れと、怖さと。もう一生、経験することはないんだという、そんな、手の届かないゆえの郷愁めいたものと。そんなごちゃまぜの感情が詰まった日本のスクール・デイズに対して、私はいつも距離感を掴み損ねたまま、大人になっていっている。

written by

SAKI.S

生まれたときから足に筋肉の筋が入っており将来はオリンピック選手かと渇望される。 小5のとき徒競走"Queen of the Queen"で優勝し、見事井の中の蛙と化す。 現在、自宅と実家の往復(400m)のみでその筋肉を使い、”猫に小判、Queenに筋(KIN)”と揶揄される。好きな食べ物はクッキー。

mono.coto Japan編集長/泊まれる自宅本屋 books1016。兵庫県加古川市出身、小中高を中国、アメリカなどで過ごす。
twitter: @monocoto_japan

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